阿佐谷伊織会第4回公演

兼二つ目昇進 祝賀会

日程: 2022年12月18日(日曜日)午後2時より
場所:阿佐谷ワークショップ

阿佐ヶ谷神田伊織会 第3回公演

 

開催日:2022年8月28日(日)14時開演

場 所:阿佐ヶ谷ワークショップ

演 目:第一席 ベートーヴェン 月光の曲

 第二席 怪談 耳なし芳一

参加者:阿佐ヶ谷ワークショップ理事長、他10名

(公演の記録)当会幹事 高木登 記

9月1日より二ツ目昇進ということで神田伊織の前座としての最後の公演、今後昇進にあたってのさまざまな行事が控えていることや、自立という点で前座とは異なる厳しい立場になることなどが語られたあと、本日の演目に関して前座の間は赤穂義士のテーマや怪談を演じてはならないという講談界でのタブーを説明されたうえで、今回、2演目目に怪談の「耳なし芳一」が入れたことに対して、三日後には二ツ目になるということで、自ら解禁しての出し物としたことなどをマクラにして、将来の方向性、どのような出しものを演じていくかなどの抱負も語られた。
 
第一席 ベートーヴェン 月光の曲
神田伊織のオリジナル作品かと思ったが、さにあらず、明治時代の尋常高等小学校の教科書にものった話で、講談でもすでにそのころから語られていたという。
物語は、タイトルが暗示するように「月光の曲」が作曲されたいきさつの話である。
時は1801年、ベートーヴェンがウィーンから故郷のボンへと急ぐ馬車の中から物語は始まる。故郷のボンに到着したベートーヴェンは友人のハンスを訪ね、彼と夜中に散歩中に、どこからともなくピアノの音が聞こえてくる。その音が長屋の一角の靴屋から聞えてきたのを探り当て、弾いていたのは靴屋の妹で、盲目の少女であることを知る。ベートーヴェンは今弾いていた曲をどこで聞き覚えたのかを尋ねる。その曲はウィーンでこそ有名であるが、ここ故郷のボンでは知られていないはずだったからである。少女は、この曲をさる夫人が弾いていたのを耳で聞き覚えたことを語り、本物の演奏を聴くことや、ピアノの指導を受けたいと兄にせがんでいたが、貧しい靴屋は無理だと言ってしりぞける 。それを陰で聞いていたベートーヴェンは、少女の目の前でその曲を弾いてやる。が、途中で部屋の灯火の蝋燭が切れ、中断する。靴屋が灯りをつけようとするとハンスは、部屋の窓を開け放して月明かりを入れ、それで十分だと言う。おりしも月光がピアノの鍵盤を照らし出す。ベートーヴェンはしばし沈黙の後、少女にまた戻って弾いてやると約束して慌てて駆け出し、ハンスの家に一昼夜こもりきりで作曲の音符を書き続ける。そうして出来上がった曲を少女の前で弾いてやる。その曲が「月光の曲」である、という話である。
話はフィクションということであるが、尋常小学校の修身の教科書にいかにもふさわしい感動的な話である。講談としても面白いのは、ベートーヴェンがハンスの家でご馳走になるのが茶漬けであったり、靴屋の家の戸が開き戸ではなく、日本式の引き戸であったりするアナクロリズムや、外国の話ながらも日本的な身近さを感じさせる設定にもあった。
心の温まる感動的な話をたっぷりと味あわせてもらった。

● 怪談 耳なし芳一
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)で有名な話で、身近な物語、怪談話である。
盲目の琵琶法師、芳一の「平家物語」の語りは近隣に聞こえた名人芸。芳一が寝食の世話になっている寺の住職が檀家に呼ばれて留守のある夜のこと、芳一を訪ねて一人の武者がやってきて、彼の上司である貴い方が芳一の平家物語を聞きたいということで彼を連れ出す。そういうことがいく晩も続き、ある雨の夜、芳一の様子を怪しんだ寺の者が彼のあとをつけると、そこは寺の墓地であった。墓地には一面、人魂がゆらめいている。芳一は激しく降る雨の中で琵琶を弾きつつ平家物語を一心不乱に語っている。寺の者が抵抗する芳一を無理にも連れ帰し、住職にその一部始終を説明する。事の重大さを知った住職は、芳一を裸にして体中、お経の文句を書きつける。そして、その次の夜、同じように武者が芳一を迎えにくるが、芳一の姿が見当たらない。縁側に芳一の琵琶を見つけると、そこには芳一の耳だけが見え、武者はその耳を芳一から引きちぎって持ち帰る。住職は、芳一の耳だけお経の文句を書き忘れたのだった。
耳の傷も癒えた後、芳一の奏でる平家物語はますます凄みを増し、遠くからも彼の語りを聞こうとやって来るようになり、芳一の名が世に知られるようになったという話である。
お馴染みの話であるだけに、講談としての語りをじっくりと楽しむことができた。

● 懇親会
阿佐ヶ谷ワークショップ理事長の佐竹さんが用意された料理と飲み物で、神田伊織さんを囲んでの懇親会には理事長と伊織さんを含めて12名が参加。阿佐ヶ谷神田伊織の会の会長、岩崎朱美さんの乾杯の音頭で始まり、初参加の方もおられたこともあって、今回は参加者の自己紹介もされた。自己紹介のなかで高野さんのお話はそのまま「芸」になる話で、皆さんが引き込まれて聴き入った。和やか雰囲気のなか、5時を過ぎたところでお開きの準備に入り、三々五々散会した。

≪次回、第4回神田伊織の会≫
12月18日(日)14時から、阿佐ヶ谷ワークショップにて。

≪神田伊織さんからの案内≫
「神田伊織、二ツ目昇進講談会」開催
9月19日(月・祝)18時開演、お江戸日本橋亭にて
会費:当日2500円、予約2000円
出演:おりびあ/貞司/伊織/香織